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岡田真宏
岡田真宏 作品制作
(2006年)
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私達は一木一草の中にも神や仏を見てきた民族の末裔である。人知を超えた大いなる存在 を感じ取り、祈りの心を持ってそれらに接してきた永い歴史を持つ。大地や山海の神神からの恵みに全霊を傾けて返礼の心を表してきた名残を、今も日本各地の 収穫祭やアイヌ民族などの森林狩猟採集民の熊(イヨ)送り(マンテ)の儀式、琉球のニラ イカナイ信仰に見ることが出来る。先達にとって河川や海を汚し、山や森を荒らすことは天に唾する行為であり、自身 とそれらは一つの連なりの中にあり、生かされる自分を実感していたのだろう。己を超えた存在を畏怖し敬う心からは、決して傲(おご)りは生まれない。そ こから生じるものはただ「祈り」の心だけである。しかし日本人は闇と語り、静寂(せいじゃく)を聞く心を何処かに 置き忘れてきたように思う。
武満徹は「人は樹に学ばねばならない」と言い残して逝ってしまった。樹は芽吹きのときか ら成長した姿を思い描いてはいない。彼は樹を取り巻く環境によって樹は生かされ、揺れ動く万象との刹那の関りの集積が形を創っていくことを教えたかったの だろう。私は樹から「時(・)を(・)か(・)た(・)ち(・)」にする術(すべ)を学んだ。そしてそ れは今も私の作品の中に生きている。
地球は奇蹟の星である。太陽系の惑星配列が僅かにずれても、巨大惑星がもう一つあっても 地球に生命は存在しなかった。また地球の質量が今よりも小さければ海を?ぎとめることは出来ず、木星が無かったならば、地球への惑星衝突は現在の千倍にも なり結果は同じになる。様様な条件が合わさり相乗効果となって地球環境は出来上がったのである。今や地球上には三千万種の無数の生命が息衝いている。その 一種として私達人間がいる不思議を深く考えるべきであろう。地球上の全物質を四十五億年に亘って反応させ続けたとしても、原始生命さえも誕生し得ないだろ うという科学的推論もある。これは「複雑系の科学」を以ってしても未だ解明できない謎である。
しかし現前として私達は地球(ここ)に在る。そして自分たちの起源を考察し、宇宙の誕生や未来の姿を探っている。人間は宇宙が創造したものである。その人間が心を持ち、宇宙の成り立ちや行く末を考えるということは、宇宙が初めて自分を見つめる眼を 持ったということであり、その眼を持つために進化を繰り返して人類を生んだとウィルバーや量子宇宙論を唱えるビレンキンは言う。それは人間の想像 を遥かに超えた深遠なる力の成せる業を思わざるを得ない。このような宇宙の力を人は「神」と呼んできた。では 「神」は何故、自分を認識するために人間を創ったのだろう。その答えを一生かけて探ることが人生の真の目的であるように思う。
コンピューターの普及により私達の社会は急激に情報化が進み、国境を越えた国際的関係 が日日濃密になっている。そして地球環境やエネルギー問題、国際紛争や食糧問題などグローバルな視座を必要とする諸問題は増え続けている。しかしグローバ ル・スタンダードと大国のそれを同一視してはならない。世界は今、アメリカの価値観に翻弄され混乱の中に在ると言っていい。しかし亜細亜には亜細亜の、中 東には中東の自然観や宗教観そして哲学があり、これらが大国の価値観に駆逐されていい筈はない。欧米の科学文明や合理主義は様々な恩恵をもたらした。しか し同時に私達はそれと引き換えに何を失ったのかを、もう一度考えるときに来ている。世界に点在する数数の民族文化の先進性や後進性を問うことは誤謬であ り、単一の価値観やグローバルな視点で論じてはならないものである。それらは飽く迄ローカルな存在であり、ローカルを離れてグローバルな価値観に立った 時、それは生命(いのち)を絶たれる。事実こ のようにして多くの文化が滅びていった。それは日本も例外ではない。それどころか危機的状況であると言っていい。文化をなくした民族が、どの様な末路を辿ったかは歴史を見れば明らかだろう。
私はものづくりは「水のごとく」ありたいと思っている。それは定まった形を持たず、何 ものにも囚われない心の有り様(よう)を言う。
私の作品は『氣の鏡』シリーズから『水の夢』へと移った。私達は地球という惑星に遊ぶ 「水」の夢なのかもしれないという思いがそこにある。水は全ての生命の源であり、私達にとって水は外なる存在であると同時に、内なる存在でもある。固体に も液体にも気体にも成る変幻自在なこの物質は、人の心が分かるのではないかと思っている。というより人体の六十パーセントを占める水の有り様が、人の心を 創っていると言ったほうが正しいのかもしれない。
終
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