岡田真宏 Being?8-15-ssq-1
「氣の鏡・祈-15-ssq-1」
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岡田真宏展
会期/1997年6月15日�@〜6月29日�@
9:30am〜4:30pm 月曜休館
会場/丸亀市立資料館
丸亀市一番丁(城内) TEL.0877-22-5366
主催/丸亀市文化協会
共催/丸亀市文化振興事業協議会
後援/丸亀市教育委員会・四国新聞社
NHK高松放送局・西日本放送
KSB瀬戸内海放送・中讃ケーブルビジョン
黒い豊穣
新緑の頃、木々の若葉がのび、日々その密度と濃さを増してゆく。露にぬれ、陽の光を透過し、風をかろやかにやりすごす。近づくと、葉を支える赤い茎が目にとびこみ、葉蔭にひっそりと垂れる白い花弁が現れる。自然の姿を描くのではなく、そんな刻々と変化する多彩で重層的な自然の造形原理を作品にあわせもとうとして、25年余の画業を重ねてきた野心家が岡田真宏である。
岡田の作品は必要最小限の作業の無限の積み重ねによる規則性と、その時と場にまかされて現れる恣意性が特徴だ。徹底的にコントロールされているからこそ、わずかなゆらぎや変化が劇的に息づく。そしていったんその動きが感じられると、それが全体と呼応しているのがわかる。部分と全体が交互に見る者に働きかけてくる。
最初期の作品「Work I-9-B」は、緻密な幾何学模様のくりかえしのパターンを、12色の油絵の具を混ぜてシルクスクリーンで刷り、絵の具が乾かないうちに一つ一つの模様を指でこすってつくられた作品である。細密な絵画にありがちな窮屈さは微塵もなく、むしろ個々の模様が微妙にふるえ、その振動が画面を無限に広げていくかのように見える。
「Work-III-4」では、和紙に鉛筆の無数の線が、紙にしみ込むまで引かれている。目は紙の白と線の黒との際の部分に吸い寄せられるのだが、ここで現れた光と闇、そのあわいの妙の感覚は、「氣の鏡・兆」や「氣の鏡・静」などの作品( 無数に引いた線を紙にもみこみ、細く裂いて貼り重ねるという独自の手法による) で、より深化している。懐の深いしっとりとした情趣も加わって、現代の山水と呼びたくなる作品だ。
このようなストイックな仕事で制御し続けてきた画家のエネルギーを、岡田は「氣の鏡・結界」で噴出させた。しかし太筆で一気にひかれたストロークと朱色の鉄錆が伝える火山のような荒々しさもまた、自然の営みの一つであり、ミクロに見れば、すべての物質はこのような運動を繰り返しているのである。
この動きをこれまでの規則的な仕事の枠のなかで、心地よい自然のリズムに還元させたのが、和紙に8〜9 色の色鉛筆で無数の円弧の線を引き重ねてつくる、
近年の「氣の鏡・祈」シリーズである。色が重なり画面は黒っぽいが、色と線が同調して、精妙な画像を生んでいる。うねうねと続く雲海、たゆたう水、闇の森からわき上がる命のリズム・・・。
描かず、色を使わず、ただひたすら線を引くことだけを自らに許した画家の画面に宿されたこの黒い豊穣に驚くほかはない。岡田真宏の芸術は、大いなるものの存在と力を' 信じ' て、' 待つ' 強靱な精神力の賜物である。
(文:美術批評家 上沢かおり)
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