「簡素」ゆえに「豊饒」     周 豪   
                         
                       
                       日本には面を付けて演じる古典舞台芸術ー「能」がある。あの能面に凝固された表情が一層表情し、あの緩慢たる所作が一層生命の律動を思わせる、その不思議さに東洋の美意識の深奥に感服すると同時に、一東洋人としての誇りを味わうものだ。 
                         僕にとっての絵画とは、余計な物を消し去った結果である。消し去ることで、却って豊かさを獲得することに神秘を感ずる。「簡素」ゆえに「豊饒」。目指すところは、形も色も絵の後ろから生まれて来たかのような画面、絵にした絵ではなく、絵になった絵である。 
                           表現としての必然性は材料によって導き出されるものである。自然さをはずさない限り、すべては「真」となる。「美」がその自然さという名の「風」に乗ってはじめて自由に舞うと思う。 
                                                                以上 
                                  
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