高橋は、1950年に兵庫県に生まれ、現在丸亀を拠点に活動しています。彼は高校時代に写真部に入り、自画像シリーズの冊子を自費出版するほどまでに写真の世界にのめりこみ、卒業後は会社勤務に飽き足らず、半年でデザイン事務所(大阪)の写真スタジオの助手になります。1971年写真家・新居義久(前記事務所の写真スタジオの創立者、四国・丸亀で写真家として活躍)氏に請われて丸亀に転居し、本格的な写真の仕事をスタートしています。
高橋は商業写真家として様々な経験を積み、30代前半に師匠からある食品メーカーの広告写真の仕事で一人前と認められ、その後、展覧会の案内状写真の撮影をきっかけとして、絵画、彫刻、工芸品などの公私にわたる美術館の収蔵品や、中川幸夫、イサム・ノグチ、猪熊弦一郎などを初めとする美術家の作品撮影の第一人者に登りつめます。そして彼は次のような写真に対する考え方にたどり着きます。
「長い間写真をとっている中で、私自身が試されていることに気付いた。中川幸夫氏の独創的ないけばな、自由な発想で描かれた猪熊弦一郎氏の絵画やイサム・ノグチの力強い彫刻群、世界的に偉大な芸術家たちの数々の作品には、とぎすまされた品格がある。それらの作品群を撮影するときにその品格がそこなわれないように写しとることが至難の技なのである。『よく見る』それは写真の品格を高めることであり、常に注意、努力することが必要なのである。」
このように語る高橋にとって、写真とは依頼される対象としての仕事、すなわち試されている自分の存在を意識することによって成り立つ仕事でした。彼の表現する「よく見る」こととは、制作者自身の生き方の本質・全体像を見極めることです。このような姿勢を持つ写真家としての仕事は、自分自身の生き方の本質・全体像を掘り下げ、より深い所を開拓していく精神がなければ成り立ちません。それは「試されている自分」の土台に「試している私」というより大きな存在を営々と築き続ける仕事に他なりません。それを高橋は初めての写真による今回の個展「樹」のエピソードとして、次のように表現しています。
「日々何げもなく眼にする日常の中で、興味をそそられるものがある。『樹(じゅ)』悠々と年月を積み重ねながら生きている生命にカメラを向けた。力強く楽しく美しく生きているその樹をとることで、試されている自分ではなく、試している私がいる。」
今回の展覧会では、香川県内で撮影した「樹」の写真20余点を出品いたします。これまでの仕事で様々眼にしてきた「崩れかけている讃岐の風景を残したい」という強い気持ちが今回の写真に結実しています。「樹」を見て受けた感動、その時の気持ちを撮影方法変えて樹に託しています。是非多くの方にご高覧いただきますようご案内申し上げます。
■企画展講座 『私の写真について』
写真の仕事を通じて様々に感じてきたことや写真に対する想いを自由に語って
いただきます。これまで知っているようで知る機会の少なかった高橋さんの人と
仕事に触れることのできるチャンスです。
日 時 : 9月6日(土) 午後 7:00〜8:00
会 場 : あーとらんどギャラリー
講 師 : 高橋 章
参加費用: 無 料