<現象>・水刻のドローイング
原 博史
私は、手漉き和紙と絹本に墨を用いたドローイング作品を制作している。制作に際て素材の美しさを損なわず生かすよう心がけている。私は四国・香川県で生まれ育ち、現在の住居とアトリエは、山紫水明、穏やかな気候の香川県山間部にある。
作品制作にはそうした環境からインスピレーションを得ることもある。
わたしは、10年ほど前に自己を見直すきっかけがあり、自分のそれまでの制作姿勢も見直した。かつて何のためらいもなく西欧画法の油彩による表現を模索していたこと、自分の表現の基となるアイデンティティーは紛れもなく日本人であることに由来し、かといって他のアイデンティティーを拒絶する意識もないことなど確認した。そして私はコンテンポラリーアートが帰属意識にとらわれず自由に表現世界の可能性を探り、人間個人の価値を尊ぶ表現であると考えている。以降、私の作品は、様々な線がリズミカルな筆跡で描かれ集積拡散を繰り返し、墨による繊細な濃淡でグラデーションを作り上げる表現へと変化した。絵画鑑賞において画面になにかしら「形」を見いだそうとすることが多いと思うが、私の作品においては、明確な形を見いだすのは困難であろう。私は、ドローイングという行為を通して、画面に現れる様々な現象を、人間存在や様々な事物、現象に問題に結びつけようと表現している。
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