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アーティスト
Japanese/English/Chinese
須永高広(すなが たかひろ)

1960 埼玉県に生まれる
1985 創形美術学校版画家卒
    日本版画協会展〈'85,'88賞候補〉
1987 「WORK7」展('88,'92)
    個展(フタバ画廊)
1989 日本版画協会展〈山口源新人賞受賞〉
    日本版画協会展受賞者展
    山口源版画展
    文化庁現代美術選抜展

1990 第4回中華民国国際版画ビエンナーレ
   ストリートギャラリー'90inいせさき展
1992 第5回中華民国国際版画ビエンナーレ
1994 個展(ギャラリー21+葉)
   ストリートギャラリー'94inいせさき展
現在 日本版画協会準会員

作品制作

 あーとらんど ギャラリーでは、須永高広の新作版画およびドローイングの展覧会を行います。須永は、1960年に埼玉県に生まれ、現在東京を拠点に活動しています。
●画家の心情
 須永は85年創形美術学校(版画科)を卒業後、しばらくは木版画を制作していましたが、高校時代に福井良之助のペーパースクリーン技法による版画作品に感銘を受けたことが遠因で、93年頃から本格的にこの技法による版画制作を始めています。彼のペーパースクリーン技法では、何版刷りという予め決めた版数で制作するのではなく、画面上に幾重にもイメージを積み重ねながら版画としての完成をめざす方法を採っています。それ故彼には、版画家(プリンター)というよりペーパースクリーンを筆の代りに用いる画家(ペインター)に近い心情があるようで、その後必然のごとくドローイングの制作を開始し、現在に至っています。
●トーン(階調)からコントラスト(対比)へ
 須永の今展の版画作品は、94年の第一回目の個展(旧あーとらんどギャラリー)に出品された作品の傾向からかなり変化してきています。- この変化を一言で形容すれば、「トーン(階調)からコントラスト(対比)へ」と言えるでしょう。当初は白色を混ぜた褐色系の色を多用した微妙な階調表現で、具体的な対象を持たない抽象イメージを描いていました。第二回目の個展においてもこの基調は変わらず、イメージの輪郭表現方法や線の表現方法、さらにはマチエールにより変化を持たせて、より洗練された階調表現を実現していました。
 しかし、今展では抽象イメージこそ変わっていないものの、これまでに見られないような下記の変化が一部の作品に見られ、トーン(階調)からコントラスト(対比)への推移が明確になってきているようです。
?イメージ表現:アラビア数字、徳利のような形、碁盤の目などのこれまでになかった具体的な「形」が表現されている。
?色彩:白色を基調とした中間色のトーン(階調)に代わって、高い彩度の色使いによるコントラスト(対比)を強調した作品がある。
?マチエール:筆で描いたような荒いタッチによる表現の作品がある。
 これらは須永にとって、表現上のテクニックにとどまらず、メッセージとしての版画の展開を模索しているものと考えられます。より強く、より速く、より遠く、そして、より直線的にメッセージ性を高める方向へどんどん進んでゆく。現代という輻輳した情報の飛び交う社会に鋭く突き刺してゆく版表現に、須永自身の方向性が徐々に明確になってきているのかもしれません。
●透明なスクリーン
 このような表現方法や内容の展開以外に、もう一つ別の面から須永の作品に近付いてみることにします。それは作品のタイトルです。作品のタイトルは、その作品を制作したアーティストによって考え方が大きく違っているように思えます。一つの極は、作品の表現内容と全く無関係な、単なる作品の識別のためのタイトルで、例えば、作品に通し番号や制作日付を付けている場合がこれに当たります。もう一つの極は表現内容に即したタイトルで、表現内容を直接言葉で置き換えている場合、もしくは見る人のために補足するような場合がこれに当たります。須永の場合は明らかに後者に属しています。
 今展の作品で彼は、「時間」に関連する言葉を豊富に使っています。これまでの作品にもこの傾向が強く、時間に関連したタイトルは約五割近くありましたが、今展の作品ではほぼ九割にのぼっています。最も多い順にタイトルをあげてみると、今展の場合「今日〜」、「午後〜」、「〜日」という具合で、言葉の種類としては、これまでに見られた「〜日」、「午後〜」と似通っています。
 このような時間に関するタイトルは、毎日の生活で天候や季節などと同様常に使っている言葉です。この何気ない言葉、特に人がこれといって注目しない言葉の中に、須永は自分の抱いている想いを託しています。「何かが作品の中にあるようで実は何もなく、ただ、その作品を通して何かを見ているような感じを受ける」‥‥‥須永の作品はそのような透明なスクリーンに似ています。かって芭蕉が「奥の細道」で語りかけた序文、
  「月日は百代の過客にして行 かふ年も又旅人也。舟の上に生涯 をうかべ、‥‥‥‥」
に見られるように、須永は時間というスケルトンの向こうに、「リアリティーを感じさせる何かの存在」を探ろうとしているのかもしれません。
●今展の作品
 今展では、ペーパースクリーンによる版画作品11点に加えて、ミックスド・メディアによるドローイング6点を出品いたします。ドローイング作品は本年後半からの制作が進行中で、これまでとは二歩も三歩も違った傾向の作品になりつつあるとの作家の話が入ってきています。是非、お楽しみいただきますようご案内申し上げます。


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