あーとらんど ギャラリーでは、幻想的なイメージの銅版画を個展で発表しながら、小説や絵本の装画・挿絵の仕事でも活躍している、東京在住の浅野勝美の展覧会を開催致します。当画廊では初めての個展となります。
浅野が絵の仕事をしたいと考え始めたのは高校時代。通信講座でイラストの勉強をしていたものの、就職はその道に直結することなく、いくつもの紆余曲折を経たある日、東逸子さんの銅版画集と出会いが美術家への道を開いてくれました。そこに展開されていたヨーロッパの幻想的な画風に心を奪われた浅野は、84年から4年間銅版画工房に通い詰め、画集を教科書として版画技法から表現方法まで独学で修得し、89年には第9回「詩とメルヘン」イラストコンクール最優秀作品賞受賞の成果を得、その後本の装画や挿絵の仕事と銅版画の個展を展開し、現在に至っています。
浅野は本が無性に好きというだけに、小説や詩の言葉からイメージを起こして装画や挿絵を描くことを得意としています。主要なモティーフは若く美しい好みの青年。
作品「鬼夜叉」では、両性具有の雰囲気を醸し出す青年が蝋燭で照らし出された官能に身を委ねる女の能面を抱く姿は、妖しくもの哀しい男と女の愛の融合を模索しているようでもあり、例え交わっても一つになれないその不条理を、青年の眼に象徴しているかのようです。
作品「秘戯」では「真夜中、秘密の戯れ(H君)」と作者自らがコメントしているように、浅野は鏡に映る虚像と交接する青年の顔の表情にこの上なく愛情を注ぎ、点描で自らの想いを表出してゆく作業から生まれる幻想の世界に浸る快楽を、先ずもって作者自身が堪能しているようにも思えます。
今回の展覧会では、家庭で気軽に飾れるサイズの銅版画約30点を出品いたします。その中には、皆川博子撰集「幻妖編」(幻想小説集)や英国児童文学の「闇の底のシルキー」の表紙のために制作された装画もあります。是非多くの方に楽しんでいただきますようご案内申し上げます。
敬具
(文責:山下高志)
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