あーとらんど ギャラリーでは、日本、中国(上海)を拠点に活動し、最近ではフランスの工房でも版画を制作している横浜在住の美術家、周 豪(Zhou Hao)の展覧会を開催致します。
1960年に中国上海市で生まれた周は、88年に武蔵野美術大学、並びに同大学院で版画を学び、以後、東京と上海を中心に香港、大阪、神戸、広島ほか各地の画廊で個展活動を展開。2005年には上海半島美術館で大規模な個展、2008年にはフランスのレミー・プチアーリの版画工房で新たに銅版画(11枚)を制作、現在それらの作品はフランスと日本で紹介され、今回当画廊でも出品致します。
周豪の新作銅版画については、A3サイズを二つ折りにしたカタログ「十一点の銅版画 周豪のアルザスでの収穫」に、『「無意味性」の意味するもの 周豪の銅版画とその周辺』(益田祐作)という優れたテキストが掲載されています。著者の鋭い感性は、周豪の創作の行為が『形なきものの実在を透かし見ようとする東洋の「空」のグラフィスム』であると。それは、「意味をほのめかす形を否定することによって、行為だけで別の何ものかを成立させようと願っている」周豪の本質なのだと喝破しています。従って、周豪の作品に見られる形は、影であり、痕跡であり、余韻そのものだということになります。これは著者がいうように、周豪は「余白を描いている」からに他なりません。
周豪は近年油彩画も手がけています。当初は版画の図柄をキャンバスの空間で再構成する作品でしたが、昨今は、図柄といえるものが殆ど消えて、分割された色面に僅かな細い線が見られるような、「幽玄」な雰囲気を漂わせる作品になっています。周豪の到達したこの幽玄の境地がどこから生まれてくるのか、絵肌と絵画空間から考えてみます。
まず絵肌については、旧来の絵の具を溶き油で濃度を調整して滑らかで硬質な絵肌を作る方法から離れて、チューブから出した絵の具で直接小さい色面を並べ、かつ重ねることによって、陰影のある柔らかな雰囲気の絵肌を生み出しています。
一方絵画空間は、大きな色面で空間を構成する従来の方法から一転して、小さな色面の塗り重ねで空間を生み出すと同時に、塗り残した処を線という形に表しています。この線は周りの空間からすれば余白のようなもので、通常の場合の実体と余白の関係が逆転しています。周豪は東洋の余白の概念を反転させることによって、「空」という存在を際立たせています。
今回のあーとらんどギャラリーの個展では、2000、2004、2006、2008年に続き5回目になります。出品作品はフランスの版画工房で制作された銅版画に加えて、オリジナルドローイング画を3次元にした紙立体、近年精力的に取り組んでいる油彩画、並びに墨絵(一部を表装している)を合計約30点出品致します。是非多くの方にご来廊いただきますようご案内申し上げます。
敬具
(文責:山下高志)
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